e-ディスカバリーの基礎

平成2310

BLT法律事務所

弁護士 高橋郁夫


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  e-ディスカバリーに関連する種々の概念

 

 裁判が、事実を究明し、その事実に基づいて、紛争当事者間の公平を図ろうとする制度であれば、紛争当事者間の種々の行為が、デジタル情報に基づいてなされる時代においては、当然にその事実究明についても、種々の変貌を遂げています。この変貌が、もっとも、明確に現れているのが、米国におけるe-Discovery(電子的証拠開示) の問題です。

情報社会において、ディスカバリー(以下、「証拠開示」という)や官公庁からの提出命令に応じるためには、技術と法のクロスオーバーする分野での経験と種々の資源が必要になっています。この分野は、リーガル・テクノロジーと呼ばれています。リーガル・テクノロジーは、もっとも、広義には、法曹によって利用されるテクノロジーを指す用語で、その中には、法律事務所のテクノロジー、訴訟および法廷でのテクノロジー、オンラインリサーチ、モバイルの利用などが含まれます。特に、近時は、訴訟および法廷でのテクノロジーの活用の分野が、急速に発展してきていて、そのなかで、電子的証拠開示や、そのなかのレビュー分野での技術の利用が注目されています。この訴訟および法廷でのテクノロジーの活用部分が訴訟支援(リティゲーション・サポート)の分野といわれます。

以下では、リティゲーション・サポート分野を理解するために必要な証拠開示の理念、手続の進行、基本的な論点を大雑把に見ていくことにします。実際の手続の詳細については、また、別個、実務編として展開していくことにしましょう。


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証拠開示の理念と実務

 

2.1. 証拠開示の理念


米国においては、民事訴訟の当事者間において、原則として相手方の保持している証拠について提出等を受けることができます。この手続は、ディスカバリー(以下、「証拠開示」という)といわれています。この証拠開示の範囲は、きわめて広範なもの(具体的には、米国においては、文書の提出、質問書に対する回答、証言録取などまで含む)と認識されていて、わが国の裁判の様相とは、全く異なるものということができるでしょう。この手続を支える理念は、米国だけではなく、コモンロー諸国に、共通するものであり、現実に、証拠開示の手続は、程度の差こそあれ、コモンロー諸国に採用されています。(英国においても、導入さています。また、シンガポールでも、電子文書がディスカバリの対象となることを前提としています)

コモンローの国におけるディスカバリーの理念を示す言葉は、「トランプを表に(Cards face up on the table)」という言葉で象徴されるということができるでしょう。

英国のJohn Donaldson 卿(記録長官)は、Davis v Eli Lily & co.[1987]事件において、

「平易な言葉でいえば、この国での訴訟は『トランプを表向き』にして行われる。他の国からきた人のなかには、これを理解できないことというひともいる。『何故』彼らは言う。『相手方に私をうちまかす手段をあたえよ、というのか』と。勿論(その通りである)、その答えは、訴訟は、戦争でなければゲームでさえもない。訴訟は対立する当事者に真の正義を行うよう構築されており、もし、裁判所が関連するすべての情報を有していなかったなら、この目的を果たしえないのである」

と述べています。

これに対してわが国では、自動的な開示制度のようなものは、わが国においては採用されていません。たとえば、当事者照会(民事訴訟法163条)が制度として採用されていますが、これに対して、回答しないとしても、とくに制裁がなされることはありません。また、民事訴訟法上、「文書の特定のための手続(同法222条)」「文書提出命令(223条)とそれに従わない場合等の効果(224条)」などの制度が存在していますが、実際に相手方のてもとにある証拠にアクセスが確保されているという運用ではありません。

「訴訟は、闘争であり、当事者は相手に打ち勝つために渾身の力をふりしぼって戦い、そして法的闘技の場から戦塵がおさまると正義が勝ち誇ったように顕れる」という理論は、「論争的裁判の理論」といわれていますが、日本における法曹の実際の行動の念頭には、このような観点があるのかもしれません。しかしながら、コモンローの国での裁判と根本的な認識が違うように思われます。


2.2.
 従前のアメリカ民事訴訟の証拠開示のルール


 これらの証拠開示の一般的ルールが、証拠が、デジタル形式で保存されることが一般になった時代でも適用されるかという点が問題となりました。

具体的に、デジタル証拠は、従来の証拠に比較して種々の観点から特殊性が指摘されています 。例えば、デジタル証拠は、おうおうにして証拠としての量が膨大なものになりがちであり、また、調査のために費用かきわめて高額な費用がかかるとか、また、情報自体、変動しやすい(dynamic)ということがいえ、コンピュータの電源のオン・オフによって変更がなされてしまい、また、上書きという形で、従来の書類については簡単に消去がなされることなども特徴としてあげられています。その上、電子的に記録されたデータは、システムによらなければ、理解できないということもいえます。

これらの観点を重視する立場から、従来は、コンピュータ証拠については、過度に広範で、負担となり、高価なものであるという理由で、企業は、コンピュータ証拠の開示手続きを避けることができるとされたこともありました。

(3)
現在のアメリカ民事訴訟の電子ドキュメントの開示をめぐるルール

しかしながら、電子ドキュメントを特別視する考え方は、一般的な支持を得られず、従来のディスカバリの考え方が、電子ドキュメントに対しても同様に適用されるという考え方が、一般的に支持されるようになりました。

これらのルールの発展の経緯を1990年代から歴史的に見ていくと以下のようなことがいえます。

1995年のチバガイギー事件においては、イントラネット内の電子メールデータがディスカバリーの対象となることについては、争いは、ありませんでしたが、連邦民事訴訟規則26条(b)(2)の規定を適用して、コストの一部を原告に転嫁することを命じました。

1997年のSatatr対 Motorola事件においては、原告が被告に対して電子メールの証拠の提出を求めたのに対して、被告が電子メールを4インチテープに書き出してファイルとして記録した場合に読み出すことができなかったという事案で、裁判所が、被告に対して読み出すことができる手段を提供するか、ハードコピーの提出に要する費用を折半するか、いずれかを行うように命じました。

1999年のPlayboy Enterprise事件においては、原告の被告に対するデータの開示要求において、原告が被告のハードディスクにアクセスしてミラーイメージを作成し、そのデータの管理を被告側弁護士にゆだねる形でディスカバリーがおこなわれるという形がおこなわれました。

その後、 2002年前後においては、eデヤスカバリーをめぐる、いろいろな裁判所で決定がでるようになっていきました。

Metropolitan Opera Association v. Local 100, Hotel And Restaurant Employees Int’l Union( 212 F.R.D. 178 (S.D.N.Y. 2003)) 事件においては、裁判所は、悪意によってコンピュータ証拠を不適切に損壊した場合において、どの程度によると訴訟を終了させるにいたるかということを明らかにしています。

Residential Funding Corp. vs. DeGeorge Financial(306 F.3d 99 (2nd Cir 2002))事件においては、Residential Fundingは、電子メールやコンピューター書類を提出するようにと要求されたのに対して、技術的困難さがあるとして避けようとしました。しかしながはら、裁判所は、そのような行為は、「意図的な怠慢(“purposeful sluggishness”)」であるとして、結局、相手方であるDeGeorge Financialの専門家が、Residential Fundingのデスクトップやネットワークにアクセスしうるものとした上に、金銭負担および証拠上の制裁を課しました。同様の決定としてSee, Antioch Co. vs. Scrapbook Borders, Inc.(210 F.R.D. 645 (D Minn 2002)、 Tulip Computers International vs. Dell Computer(2002 WL 818061 (D DE 2002))があります。

これらのようなeディスカバリ対応をなさなかった場合の対応について定める以外にも、ディスカバリーのプランについての決定がいくつかでています。具体的には

(1)Simon Property Group v. mySimon, Inc.(supra, 194 F.R.D. 639)においては、中立のフレンジック専門家を裁判所のオフィサーとして、命じ、被告に関連するコンピューターを特定させ、検査、異議、情報移転について、会議を開くようにさせました。そして、具体的に、専門家が、検査をすることができるように命じ、その専門家に対して、ファイルの保全・回復と提出をなすことなどを命じました。

(2)Trigon Insurance Company vs. United States(204 F.R.D. 277 (E.D.Va. 2001))は、保険会社が、政府に対して7年間にわたる所得税の還付をもとめたものです。 政府は、分析途上において、アナリストにドラフトを含んだ数通の電子メールを送付したが、その後、それらのメールについては、通常のリテンションボリシーにもとづいて消去したと主張しました。しかしながら、裁判所は、政府の見解をみとめませんでした。専門家の分析によって政府が大量のデータを消去していたのが明らかになったので、証言や専門家の信用性についての、不利益な説示をなしました。この事件は、フォレンジックの専門家の果たすべき役割の重要性を示すものと評価されています。

(3)Rowe Entertainment v. The William Morris Agency( 2002 WL 63190 (S.D.N.Y.))は、秘匿特権を扱うのに際して、技術的な問題が提起されたときの扱いについての一つのモデルを与えています。原告が専門家を指名し、被告は、それに対して異議を述べる機会があたえられます。原告は、被告の技術者の助力をえてミラーイメージを取得して、検索手順をさだめ、それを被告に通知します。被告の代理人は、検索語を含めて、その手順に対して異議を述べることができます。そして、適切な検索手順が確立されたら、原告の専門家によって実行されます。

また、一連のZublake判決なども出されて、eディスカバリーの手順が次第に明らかになってきたということがいえるでしょう。そして、そのような判決例などをもとに、連邦民事訴訟規則が定められて、eディスカバリーの実務が、発展・定着していくということができるでしょう。

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 連邦民事訴訟規則(FRCP)の定める手続の流れ

3.1.FRCPの定め

連邦民事訴訟規則は、ディスカバリーをプランニンク(FRCP26条(f)段階、初期開示(同条(a)(1)、専門家証人の開示(同条(a)(2))、トライアル前の開示(同条(a)(3))などにわけて定めています。

3.2.プランニング

具体的な訴訟の提起(および、それを前提とした保全義務の発生)から、審理のスケジュールを定める会合までの流れは、おおよそ、以下のようになります。

(1)保全義務の発生

これがいわゆる訴訟ホールドの発生時期ということになります。この時点において、積極的かつ時宜を得た手法でもって、電子証拠に関するするものとかんがえらるものの改変もしくは損壊を防がないといけません。この時点がいつになるか、また、どのような手法が必要になるかなどの点は、あとで触れます。

(2)訴状の送達

 訴状のファイリングと同時もしくはその後に、召喚状(Summons)が、作成され、廷吏によって署名・押印されます。召喚状と訴状が、被告に対して、送達されます(FRCP4条(b)および(c))。送達は、特に誰によって送達されなければならないということはありませんが、連邦執行官などによっても、なされえます。

(3)Meet and confer 会議(99日まで)

電子的な開示を求める当事者・代理人は、最初に、相手方当事者に対して、開示を求めることになる。そして、この進行については、訴訟両当事者間で会議が開かれることになる。この会議は、訴状送達から、99日以内に開かれなければなりません。そこでは、ESI(電子的保存情報)の保全についての論点、ESIの検索・開示・ディスカバリについての論点、提出のフォーマット、ESIホールドの範囲、コストの評価などが議論されます。

この会議で議論される内容などについては、実務編で触れることにします。

(4)Scheduling conference120日まで)

このスケジュール・コンフェレンスは、事件の日程とデッドラインを判事が決定するものです。

3.3 初期開示におけるe-ディスカバリ

同規則26条(a)(1)(A)(A)は、

(a) 要求される開示.

(1)初期開示

(A)一般に、Rule 26(a)(1)(B)もしくは、他の定め、ないしは裁判所によって定められた除外がない限り、当事者は、ディスカバリーの要求をまたずして、相手方に対して、

(i)(略)−名前、住所、連絡先など

(ii)請求もしくは抗弁を支える開示当事者が保有し、保管し、コントロールするすべての書類、電子的保存情報、有形物のコピー — もしくは、カテゴリーおよび所属の記述 — ただし、その利用が、刑事責任を招くときはこの限りではない

(B)(C)(略)

と定めています。ので、これを自ら開示(disclosure)しないといけないことになります。

そして、同条(a)(1)(C)以下は、「(C) 初期開示の時期−一般」として、特段の定め、上記のFRCP26条(f)の会議もしくは、その後、14日以内に、初期開示をしなければならない、と定めています。

実際に、開示にいたるまでの流れについては、実務編に委ねることにします。

4  e-ディスカバリーをめぐる具体的な論点

e-ディスカバリーをめぐる一般的な論点について、以下にみていくことにしましょう。

 

4.1.  訴訟ホールド

訴訟ホールドというのは、、文書の保全義務が発生する(リティゲーションホールド/訴訟ホールド)一定の状態をいいます。これは、訴訟が合理的に予測される時に、発生すると考えられています。もっとも、何が「訴訟が合理的に予測される」というかという問題があります。具体的には、(1)相手方弁護士もしくは政府機関からの保全要請の手紙(2)訴状のファイル(3)同業の会社が訴えられた、もしくは、調査を受けるなどの訴訟もしくは調査の脅威がある場合(4)訴訟に展開しうる問題があることを知った場合、がこの場合に該当すると考えられています。

訴訟ホールドは、以下に述べるように、「積極的に(affirmative)」手元の証拠を保全すべき義務というものです。積極的に、というのは、手元のESIの範囲にわたって、その管理者に対して、積極的に、その保全義務を周知させ、保存を実際にさせなければならず、また、弁護士は、その手続を監視しなければならないということになります。そして、改変・消去が容易であるという性質をもつ電子的証拠であることに留意し、真正性についての異議に対応しうるようにしなければいけません。その上、どの範囲まで、これが及ぶのかというのについては、細心の注意を払わないといけません。

訴訟ホールドがどの範囲におよび、それをどのような手順で識別するのか、及んだ文書について、どのような手順を経て、提出までいくか、という点については、むしろ、実務編としてEDRMなどの標準的な手順を説明する時にふれるのがいいだろうと思われます。

4.2. ドキュメント管理ポリシーとの衝突について

上述したように、訴訟ホールドの状況のもとでは、積極的に手元の証拠を保全すべき義務が発生します。その一方で、企業においては、文書の保存・消去について、一定の方針(ドキュメント・マネージメント、レコード・マネージメント)を定めて対応しています。この文書保存ポリシに従って文書の消去がなされてしまっていて、紛争が起きてから、その紛争に関連する文書であるにもかかわらず、もはや存在しないということが許されるのかということになります。

この点についての一般的なルールは、そのような通常の文書管理のしくみにしたがった消去された場合、そのデータが存在しないとして提出ができないという事情は、法的に許容されるというものです。連邦民事訴訟規則37条は、電子システムにおいて、通常の、善意でなされた業務運用の結果として消失したESIについては、提供を免れるということを明らかにしています。これは、いわゆるセーフハーバー規定といわれています。

では、「通常の(routine)、善意でなされた(good faith)」業務運用の結果というのは、なにか、という問題があります。一方、どのような場合が、通常の消去ポリシにしたがわない消去といえるのかという点が問題になります。

この点で、まず、訴訟ホールドとも関係しますが、ESIを消去、変更しうるルーチンを停止しなければなりません。ハードディスクのフォーマットし直し、コンピュータの置き換えなどは、停止されるべきものといえます。これを無視するような運用は、許容される業務運用とはいえないことになります。そのような業務運用をしているとしても、その運用が、完全に成功するものとはいえず、そのような場合が、「通常の(routine)、善意でなされた(good faith)」業務運用の結果ということになります。文書保存規定を有していたとしてもそれに従っていなかった場合、それを有していないのと同様であるとして、このセーフハーバー規定の適用を否定した判決例があります(DoeNorwalk Community College事件)。

4.3. 証拠の隠滅(Spoliation

民事訴訟規則に従った形で、開示を行わない場合、証拠の隠滅(Spoliation)とされることになります。

-ディスカバリーにおいて適正な開示がなされていないと裁判所が認識した場合に、当事者は、開示を強制する申立をするとともに、種々の制裁を課すことを求めることができます(FRCP37条(a)3(A))。

 具体的にe-ディスカバリーにおいて、

()依頼者にたいして、開示の義務についての適切な指示をださなかったこと

(い)電子的文書を含む文書保存規定をもたないことを知っていたこと

()文書の提出を一般人になさしめたこと

場合などについては、隠滅と判断される可能性があります。

ここで、もっとも一般的に隠滅とされうる可能性のある場合についてみていきましょう。

上述の訴訟ホールドの時期に達して、保全義務が発生した以降は、コンピュータ文書については、現状を維持することじたい(上書き保存の場合など)でも文書の破壊が発生する点に注意しなければなりません。そして、たいていの企業は、バックアップ手続を採用しており、そのテープに対しても保全義務の対象となります。ですから、訴訟ホールドになったら、企業のIT管理者は、法律関係者と密接な関係を維持して、すみやかに訴訟ホールドを達成しないといけません。

 また、これらの問題に対して、紛争状態に達した場合に、弁護士は、依頼者に対して具体的に保全すべき行為を教示しないといけないとされています。ですから、どのような場合に、この訴訟ホールド状態に達するのか、どのようなデータに対して、どのような保全を教示するのかということが問題になります。

一方、当事者とすると普段のコンプライアンス対応体制が、どれだけ整備されているのかを試されるということになります。たとえば、個人所有のハードウエアを会社の業務に用いるとしている場合に、その所有物に対しても、十分なホールドをなすことができるか、また、業務との関係で、SNSなどを公式の企業の意思公表システムとして利用しているとすれば、そのSNSなどでの活動を保全し、それこそ、上書き保存がなされないようにしなければなりません。どのようなハードにデータが記録されているのかという問題に加えて、どのようなデータが保全の対象となるのかということも考えないといけません。基本的には、事件に関連性あるすべてのデータが保全の対象になるので、メタデータなどについても、そのままの状態で保全されないといけないことになります。

また、保全方法についての教示という点からいえば、上述したように上書き保存じたいが、消去として認識されることは十分に注意しなければなりません。

4.4.制裁について

 

(1)制裁の根拠と種類

 当事者および代理人は、eディスカバリーに関して、誠実な努力をしなければなりません。しかしながら、それを怠った場合には、制裁が課されることがあります。 理論的には、裁判所固有の権限によるものと連邦民事訴訟規則によるものとがあります。また、態様からみるときに、裁判所は、一定の手法を講じて適正な証拠の保全がなされるようにする場合、また、場合によっては、損壊者に対して不利な判断をなす、という制裁を課す場合があります。

前者においては、開示に対して相手方が、応じない可能性がある場合には、その当事者は、開示を遵守すべきことを求めることになります(FRCP37条による開示の遵守の強制)FRCP37(a) Motion for an Order Compelling Disclosure or Discovery.(1) 一般(In General)は、相手方および関係者への通知に基づいて、当事者は、開示もしくはディスカバリーを強制する命令を申立ることができることを示しています。

命令に応じない場合、連邦訴訟規則に基づく制裁や裁判所の固有の権限に基づく制裁が課せられることがあります。

連邦民事訴訟規則に基づくものとしては

(あ)(費用負担)裁判所は、保全を怠った当事者に対して一部の責任を認め、開示の濫用から必要になった費用の負担を命じることができます(例えば、United States 対Philip Morriss事件)。

(い)(説示)裁判所は、「釈明しがたい行為」であるという説示を行うとか、問題の事実は、証明されたものと指示するということができます(例えば、Zublake事件)。

(う)(事実認定)裁判所は、主張された事実が証明されたものと扱うことができます。

(え)(裁判所侮辱)開示への対応の不十分さを裁判所侮辱として制裁を課すことができます。

(お)(その他)その事実に関する主張については、却下したりすること、開示の命令に従うまで手続を遅らせることができます。

などの制裁を課しています。

 また、裁判所固有の権限に基づくものとしても、上記のような制裁を課すことができます。この場合、特に、単純な過失、意図的な行為、害意ある場合かが考慮されて、制裁が課されることになります。

(2)制裁を免れるために

このように制裁の法理が発展しているために、当事者としては、どのようにして、このような厳しい制裁からのがれるようにすべきかという問題に直面することになります。

これらの制裁を免れるためには、

戦略として、

(あ)普段から、法および実務を十分に調査すること

(い)データを破壊し、上書きするポリシを停止すること

(う)裁判所から保存すべき電子的文書の範囲を定めてもらう命令を取得する

などが重要だとされています。

4.5. コスト負担の問題について

eディスカバリーの問題に関して、コストの負担の問題がでてきます。米国においては、開示にかかわる種々のコストは、その提出する当事者が負担するのが一般的なルールになります。これに対して、英国では、敗訴当事者が勝訴当事者の訴訟費用(ここでは、弁護士費用を含む)を負担すべきとなります(現実には、タキシングという計算手続があります)。

ただし、電子的文書については、すでに消去され、格納されてしまったデータについては、すでにその当事者が「保有(possession)」するものではないとして、その回復のための費用は、請求当事者が負担すべきではないかという説もありましたが、裁判所は、この議論を認めるものではありませんでした。というのは、この場合に、コストの移転を認めてしまうと、重要なデータをそのようなデータ格納スキームのもとで、格納してしまうのを奨励することになりかねないということがあったからです。

もっとも、改正前の連邦民訴規則26条の規定も比例ルールを定めており、これが、eディスカバリーに対応して「不適切な負担もしくは費用」を回避するために利用されており、かかる比例ルールが電子的開示の際のコスト負担についても適用されることを言明する判決もでてきていました。

種々の議論がなされましたが、現在は、Two-Tierアプローチという考え方が一般的になっています。そして、この考え方をもとに連邦民事訴訟規則も構築されています。連邦民事訴訟規則26条(b2B)によると、

(B) 電子的に保存された情報についての特別の制限(Specific Limitations on Electronically Stored Information

不合理な負担もしくはコストにより合理的にアクセスしえないと当事者が、特定した保存もとに電子的に保存された情報を開示する必要はない。開示強制もしくは、保護命令の申立において、開示を求められた当事者は、情報が、不合理な負担もしくはコストにより合理的にアクセスし得ないことをしめさなければならない。その点が示された場合、裁判所は、それにもかかわらず、規則26(b)(2)(C).示す限界を考慮し、そのような保存元からの開示を命じることができる。裁判所は、開示についての条件を特定することができる。

と定められています。これは、実際的には、ESIは、二つのグループに分けられており、それによって、ルールが異なることを示しています。

具体的には、データがどのようなところに、どのように保存されているかということを考えてみましょう。実際には、(1)アクティブ・オンライン データ、(2)ニア ライン データ、(3)オフライン保存・アーカイブ、(4)バックアップテープ、(5)消去・断片化・破損データにわけて考察することができます。

(1)アクティブ・オンライン データ

 アクティブな段階というのは、ESIが作成され、受領され、処理されている段階で、ハードディスクなどに記録されているデータを指し示します。

(2)ニア−ライン データ

ニア−ライン データというのは、自動的に記録されるシステムのデータを含むものです。具体的には、光学ディスク、リムーバブルディスクなどをいいます。

(3)オフライン保存・アーカイブ

電磁的記録やアーカイブであっても、災害復旧用、もしくは、記録の保存用の記録をいいます。一般的には、検索しうるメディアではありません。

(4)バック・アップテープ

ここで、バックアップテープというのは、順次(シークエンシャルに)アクセスされるメディアをいいます。実際には、圧縮されて記録されることも多いといえます。これらの保存データは、テープすべてを復元しないともとのデータを回復できないことになります。

(5)消去・断片化・破損データ

消去されたファイルであっても、新しいファイルによって上書きされないかぎり、消去されないし、また、断片化されたファイルというのは、内容が分断され、連続した空間に存在しないものです。また、破損ファイルというのは、ハードウエアやソフトウエアの誤動作等によって、完全な形ではないファイルをいいます。このような場合には、特別の処理によってアクセスしうるようになります。

このうち、(1)ないし(3)について(第1群)と、(4)および(5)について(第2群)の分類は、開示の対象になるかという点とコスト負担の点で、取り扱いが異なるものとされています。

第1群は、関連性があり、秘匿特権が関係ない場合には、開示の対象になるものと考えられます。開示を命じる命令が必要なわけではありません。一方、第2群は、保存元を特定するのみでたり、その場合には、相手方(開示要求者)がアクセスするとした場合にのみ開示が可能になります。開示要求者は、相当な理由(訴訟にとって必要な理由)を明らかにして裁判所の命令を得ることになります。第1群の場合には、ESIのタイプやカテゴリーを特定しないといけないのです。

第1群は、「合理的にアクセスしうるもの」とされて、当然に、データを保存している当事者自身のコスト負担で、開示されるべきものと考えられています。一方、第2群は、両当事者によって分担されるべきものと考えられています。もし、裁判所が、この第2群のESIについて開示を命じたのであれば、弁護士は、相手方当事者にコストを分担するつもりがあるかを問うことになります。

4.6. その他の問題について

上記以外の法的な点についての問題としては、データのサンプリングに対する考慮、秘匿特権の放棄などの問題も考える必要があります。

実際的な問題を深く理解するのには、、e-ディスカバリーについての標準的なモデルの詳細、セドナ会議によるガイドライン群などを検討する必要があると思われます。これらについては、eディスカバリーの実際という項目で深く検討する必要があります。